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私も今、孝一に言いたいことや尋ねたいことを口に出せない状況だった。
ひとたび口にしてしまい、恐れている事態を現実のものと認識するのが怖くて。
孝一は留美と浮気している?
いや浮気じゃなくて本気?
私を捨てて留美を選ぼうとしている――?
そんな不安が渦巻き、その不安が私を苦しめ、それでも動けずにいる。
下手に動いて孝一を失ってしまうのが恐いのだ。
不安を解消するために孝一を問い詰めたりしたら、逆に薮蛇となるかもしれない。
一番信じ合うべき人を信じられなくて、気になることも聞けない状況は、遥子と同じ。
私と遥子はある意味、同類だった。
「そうよね……。遥子の気持ち、分かるわ。白黒決着つけて失ってしまうのが恐いのよね」
「……」
「私も同じだもの」
「沙織……そうなの? 沙織も同じなの?」
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