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「ううん、私は幸せ。沙織には申し訳ないけど……」
孝一の前では殊勝なことを言い、しおらしい演技をしていた。
だが実際は、沙織に対して申し訳ないと思ったことなど一度もなかった。
彼を奪いたい――。
その一心しかなかったのだから。
恋なのか愛なのか独占欲なのか、自分でも分からない。
理屈にならない激しい情念に、私の身も心も支配されているようだった。
その夜、孝一はずっと私の部屋にいた。
薬によって眠りに落ちたからではなく、彼自らの意志で。
用意していた薬を使用する必要はなかったのだ。
初めて一緒に迎えた朝、窓の外には粉雪が散らついていた。
今年に入って二度目の雪だった。
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