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今の私が欲しいのは、ギャラよりもデビューへの道。
報酬など無くてもいいから、自分の名前が脚本家としてテレビ画面に映ることを夢見ていた。
だがそこまで考えた直後、ハッと気づく。
“報酬などなくてもいい”などと贅沢なことを言っていられるのは、孝一と暮らしているからだ。
経済的な面でも甘えていられたからだ。
プロデューサーから辛い報告を聞かされ、落胆と徒労感を抱えて帰宅すると、リビングのソファーに孝一が座っていた。
テレビを見るでもなく、食事をするでもなく、ただ静かにポツンと座っていた。
「沙織、おかえり……」
真剣な表情を私に向ける孝一。
その真剣さから、彼が重大な話をするつもりなのは察知できた。
だが私は気づかぬフリをして、自分から話題を出す。
「ただいま。プロデューサーと会ってきたの。連ドラの企画書、ダメになっちゃった。ビッグチャンスを逃しちゃった」
「そっか……。残念だったね」
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