沙織の絶望

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前日の雪空とは打って変わって、よく晴れた一日だった。 二月半ばの真冬にしては風も暖かくて。 だがやはり日が暮れて夜も深まるにつれ、外の空気は冬の寒さを取り戻していった。 孝一は私の少し前を寒そうに肩を丸めて歩く。 私は彼の後ろを黙って付いて行くしかなかった。 数ヶ月前なら、きっと手をつないで歩いていたのに。 「寒いね」なんて言い合いながら、二人仲良く並んで歩いていたのに。 時が戻ればいいと何度願ったことだろう。 今だって溢れるほどの後悔と執着心でいっぱいなのだ。 「この店でいいかな?」 振り向いた孝一が私を見て言った。 「ええ」 半年ほど前に一度だけ一緒に来たことがある個室風の居酒屋だった。 今日の話し合いを「外でしたい」と孝一は言ってきた。
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