213人が本棚に入れています
本棚に追加
確かに家で私の手料理を食べながらでは話にくいのだろう。
別れ話なのだから……。
店員さんに案内された席は、奥の角で一番落ち着けそうな場所。
孝一がウーロンハイを頼み、私も同じ物に合わせた。
「沙織の食べたい物を選んで。僕は何でもいいから」
孝一がメニューを渡しながら言う。
そう言われてもじっくり選ぶ気になどなれず、メニューの始めに載っていた“今日のおすすめ”から三品ほど適当に選んだ。
ウーロンハイのグラスが運ばれてきて、私たちはそれを手にする。
こんな時じゃなければ、グラスを合わせて乾杯したはずだ。
だが孝一は「お疲れ様」と言っただけで、すぐにグラスを口にした。
私も一口飲む。
「美味しいね」などの言葉は当然なく、殺伐とした雰囲気と重い沈黙。
私からは何も言えず、ただゆっくりとウーロンハイを飲むしかなかった。
「沙織、ごめん」
最初のコメントを投稿しよう!