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私は甘えるように言いながら、横目で孝一の表情を盗み見た。
「……」
孝一は何も答えない。
困っているのがありありと判る。
その様子を見た時、脳裏に苦い記憶が甦った。
不倫の恋の苦い記憶――。
妻子持ちの元恋人は、私に散々愛を囁いたけれど、結局は奥さんのところへ戻っていった。
捨てられた女――。
それが私の末路だった。
同じ思いは二度と味わいたくない。
「お願い。ずっと私のそばにいて!」
「うん……そうしたい気持ちはあるけど……」
辛そうな孝一を見て、これ以上追いつめるのは逆効果だと悟った。
「ごめんなさい、困らせて。今言ったことは忘れて。本当にごめんなさい」
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