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9月といえども日差しは強く、残暑の厳しい日だった。
私は沙織のアパートで、彼女の嬉しい報告を聞いていた。
クーラーの温度をもう少し下げて欲しいと感じる暑さだったが、沙織に遠慮して言い出せない。
沙織は電気代だって節約したいだろうし、近いうちに私もそういう生活になるのだ。
「じゃあ孝一さんは留美と別れる決心をしたのね」
「ええ。彼はそう言ったわ」
「別れ話はもうしたのかしら? その後、彼から連絡は?」
沙織は首を横に振り、壁に掛かったカレンダーを見ながら答える。
「まだ10日くらいしか経ってないもの」
「10日あれば、別れ話は切り出してる筈よ。決心が本物なら」
私が指摘すると沙織は困ったように黙り込む。
そして私のグラスに冷えた麦茶を注ぎ足した。
「ごめんね、沙織の嬉しい話に水を差すつもりはないんだけど」
「ううん。遥子の言う通りだわ。本当は気になって仕方ないの。孝一に連絡して聞いてしまいたいぐらい」
「聞けばいいじゃない!」
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