246人が本棚に入れています
本棚に追加
本当に優しい男なら、私の意志も聞いてくれる筈だし、産むという可能性も選択肢に入れるだろう。
たとえ別れたいと思った女であっても。
本物の優しさがあれば、子供の命だって考えるだろう。
産まないという結論を即断できないと思う。
もっと迷い、深く悩むだろう。
だけど孝一は少しの迷いも見せなかった。
彼は自分の都合や保身のことしか頭にないのだ。
そのくせ費用を出すとか病院に付き添うとか、中途半端な優しさは示す。
孝一の本性がはっきりと分かった今、私は迷わず芝居を続ける。
「本当にその必要はないの。もう全部、終わったことだから」
「えっ?」
孝一の表情はさらなる驚きで固まっている。
「最後に打ち明けちゃってごめんなさい。でもやっぱり、孝一さんにも知って欲しくなって。私の我儘ね」
「どういうこと? 全部終わったって……留美は何が言いたいの?」
「だから、もうすでに孝一さんの望み通りになってるから。私、そうしたから」
最初のコメントを投稿しよう!