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「孝一さんに迷惑かけたくなかったの。産むことを反対されるのが分かってたから」
ハンカチで涙を押さえながら殊勝に伝える。
これ以上の涙は本気で抑えたかった。
ここはホテルのラウンジ、しかも明るい朝食の時間なのだ。
孝一は辛そうに、うな垂れている。
「孝一さんを本当に好きだったから、迷惑かけたくなかった……。困らせたくなかったの」
「……」
「こんな話を打ち明けること自体が迷惑かけてるから、矛盾してるんだけどね……」
孝一は何も言い返してこない。
私は潤んだ瞳で孝一を見つめ、とどめの言葉を刺す。
「私のことは忘れてもいいから、赤ちゃんのことだけは忘れないでね」
黙っていた孝一が絞り出すような声で言う。
「忘れられるわけがない。留美のことも……」
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