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孝一の声は泣き声に近かった。
「感情の波が激しくて、悪い言い方をすればヒステリックで我儘な人かと思ってた」
「……その通りだわ」
「そうじゃない。本当は凄く思いやりがあるんだよね……。留美は優しいよ。優し過ぎる」
「……」
孝一の言葉がじんわりと私の胸に沁みた。
孝一は私の芝居にまんまと騙され、私に対する印象は大きく変わったようだ。
――でも、なぜだろう。
芝居が成功して満足する気持ち以上に、切なく感じてしまうのは。
“優し過ぎる”などと褒められて、心が揺れてしまうのは。
私は自分の心の動きに戸惑っていた。
――私も甘いな。
自分自身に苦笑する。
孝一はやっかいな重荷が無くなって安堵しているからこそ、優しい言葉を言っているだけかもしれないのに。
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