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「だったら奪えばいいのに」
「だからそれは無理なんだって! 相手の気持ちだってあるし、子供もいる家庭を壊して誰かを不幸にするのは嫌だわ」
遥子はイライラした口調で吐き出すように言った。
「遥子はホント平和主義ね。自分の家庭はあっさり奪われても、他人の家庭は奪えないなんて」
「私のことバカにしてるの?」
「違うわよ。私とは違うなぁって感じてるだけ。どっちが正しいのか分からないし」
なだめるように穏やかな口調で言うと、遥子の表情から怒りや苛立ちが消えていく。
「ある意味、留美が羨ましい。そこまで自分の気持ちを貫けたら気持ちいいんでしょうね」
「ううん、苦しいわ。そこは遥子と同じ」
私たちの視線はぶつかり合い、同時にふっと笑う。
ようやく共通点を見つけた安心感に近い笑いだった。
落ち着きを取り戻した遥子が探るように尋ねてくる。
「それで今はどうなの? まだ孝一さんと会ったりしてるの?」
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