留美の想い

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それからの私は、穏やかで満ち足りた気持ちに包まれた日々を過ごしていた。 産む決心を医師に告げたら、彼女は大きく頷き励ましてくれた。 「良かった。頑張りましょう」と。 一番の心配だったつわりなど体調不良も、幸いほとんど自覚せずに済んだ。 きっと個人差があるのだろう。 ――大好きな人の赤ちゃんが私の中で生きている。 その現実がこんなにも心を豊かに、幸せな気持ちにさせてくれるのだと実感した。 妊娠のことは誰にも言わなかった。 可南子を始めとする数少ない友人や、疎遠になっている家族にも。 そして孝一にも……。 寒い冬は瞬く間に過ぎていった。 春が訪れると、新人が入社してきたり何人かの異動があったり、社内はバタバタしていた。 孝一は今までと変わらない部署で、相変わらず優秀な仕事ぶりとの噂を耳にした。 私はゴールデンウィークが始まる直前、上司に退社の意志を打ち明けた。
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