留美の想い

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「5月末で退社したい」と伝えたところ、私の希望はあっさりと受け入れられた。 契約社員の私が辞めたところで、会社には何の影響もないのだろう。 「結婚するのかな?」とにこやかに聞かれた時は、「いいえ」と苦笑いで誤魔化すしかなかったけれど。 口の堅い上司だったので、私の退社はギリギリまで誰にも知られず助かった。 退社の理由を周りからあれこれ質問されたら面倒だったから。 「水臭いですよー! どうして、もっと早く教えてくれなかったんですか?」 退社の一週間前、一緒にランチを食べながら私の話を聞いた可南子は、驚いたあと口を尖らせた。 「ごめんね。なかなか切り出しにくくて。可南子ちゃんには、もっと早く伝えたかったんだけど」 「留美さんがいないと淋しいですよ。何で辞めるんですか?」 当然だけど、やっぱり質問された。 「うーん……。実家に帰ろうかなぁ、って思ったの」 私は嘘をついた。
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