未来の君へ

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「歩けますか?水、飲みます?」 郁真の声に返事も出来ず、顔を伏せて左右に振る。郁真に担がれるようにして身体を起こされても顔を上げられない。 片手で顔を拭う。 この歳になって、別れたぐらいで泣くことになるとは思わなかった。 「郁真くん!タクシー捕まえたから。早く、早く!!」 花奈の声が響く。 「高野さん、帰りましょ」 郁真の肩を借りて、フラフラと歩き始めた。 「郁真…………ワリィ」 か弱い台詞に、郁真は無言で腰に回した手に力を込めた。 今日の昼、菜緒はこの街を出て行った。 見送らないつもりだったけど。 一瞬だけでいい、最後のケジメとして。 市民球技場の駐車場で、電車を待った。 たった一瞬、確かに目が合って。 電話越しの菜緒の泣く声が、今も頭から離れない。
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