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「酔いがまわってます?大丈夫ですか?」
喋らない俺に郁真が声をかけてくる。歳下のクセに気の利く後輩は有難くて腹が立つ。
「いや、大丈夫。俺、あの角のコンビニまででいいや」
「本当に?一緒に行きますよ?」
シートから身体を起こす俺に合わせて郁真も上体をあげた。
「明日の朝飯も買うし。子供じゃないから、心配はいらない」
郁真を制して、運転手に声をかけて。タクシーから降りた。
ここのコンビニには、菜緒と二人でよく通った。
食パンとミネラルウォーターを何本かカゴに入れて、目についたいつものレモンティー。
しばらくラベルを見つめて
込み上げてくる想いをグッと抑える。
悔いが残らないように、と今日まで二人一緒に過ごしたはずなのに。
今日が来なければいい、と本気で思ってた。『トモ、私ね東京に行くのやめたよ』と菜緒が笑う夢を何度見たか…。
身体を掻きむしりたくなるような苛立ちと芯から枯渇するような失望感。
言葉にならない声を、本当は伝えたかった言葉を、人目を気にすることなく叫べたら…
わかってる。
もう、遅いんだ。
強めにガラスの扉を閉めた。
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