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レジを済ませた聡美(さとみ)が、ジャンパーの裾を掴む。
「お待たせ。
久しぶりに会った友達?話が盛りがってたのね」
「あの子は、郁真の昔の彼女だよ」
「随分若く見えたけど…」
「まあ、な…」
「ふーん。ま、イイけど」
聡美の機嫌を損ねそうな気配に、裾を掴む手を包む。
「映画の時間に遅れる」
「……誤魔化したわね」
夕方に近づいて、アーケード街は更に混み具合を増した気がした。
もう、すれ違う人の顔も気にならない。
菜緒…
振り回してばかりで悪かったな。
東京で頑張ってる姿を見たい気もするけど。
いつまでも、恋の魔法にかかってる、あの頃の子供のままでいて欲しい。
あの頃のまま、笑っていて欲しい。
そんなの…
やっぱり、ワガママだな。
菜緒…
お前も頑張れよ。
俺の好きだった、菜緒の笑う顔を浮かべながら歩いた。
fin.
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