大きな栗の木の下で

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「お父さん、栗拾い楽しかったねぇ」 「カイ君、いっぱい拾ったもんねぇ。凄いわぁ」 助手席に座る妻が、後部座席の息子に声を掛ける。その姿をバックミラーで見つつ、私も息子を誉めた。 「そうだなぁ。カイは、栗拾い名人だな」 馬鹿な言い回しだったかもしれないが、息子は、いたく気に入った様子で抱えている網に入れた栗を高く掲げた。運転と栗拾いで疲れていた私だったが、この幸せな一時が癒やしてくれている事が実感出来た。 「あ、人間の実が落ちてるよ!」 「「ええっ?」」 息子が窓を指差し、突拍子の無い事を言い出したので、私達夫婦は、同時に素っ頓狂な返事をしてしまった。 「人間の種?」 妻は、再び後部座席を振り返って息子に尋ねた。 「そう。栗が落ちるのって、子供を増やす為だって、お父さんが言ってたよね」 息子は、網に入っている栗を突き出して、明るく話を続ける。 「さっき、靴下が落ちてたんだ!誰かが落としていったんだよ」 息子の答えで、私達は吹き出してしまった。 「違う違う、あれは本当に落とし物なのよ」 妻は息子の頭を撫でながら、優しく教えた。 「ああ、素敵な話だけどな。もしかして、弟か妹が欲しいのか?」 私は視線は前から外さずに息子に尋ねた。息子は、照れながら頷く。 「うん。今日は楽しかったから、お兄ちゃんになって教えたいんだ」 帰路に着いてから一時間も経った頃、車内であれほどはしゃいでいた息子は疲れていたのか、いつの間にか眠ってしまっていた。 「あなた、どうする?」 妻は息子が起きない様に小声で話し掛けてきた。 「もしかして、さっきの話?」 「そう、弟が妹かって」 妻は頷きながら答えた。夜も更け始め、薄暗くなりヘッドライトを灯し、私は口を開いた。 「君、大変じゃないの?」 「私は平気よ」 「そうか、じゃあ…」 私はハンドルを握る手を片方外し、栗拾いの時に嵌めていた軍手の片方をジャケットのポケットから取り出した。 「カイの時は、潮干狩りの季節だったなぁ…」 そんな事を呟きながら、少し窓を開けた。冷たい秋の空気が車内に入り込む。 「軍手が成長する来年は、栗と子供拾い、かなぁ…」 そう言って、私は微笑みながら軍手を窓から落とした。芽吹き、成長し、子供な成るのを想像し、楽しみになっていた。
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