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「くっ……!」
その山は、身が凍てつく程の空気を漂わせていた。特に雪が積もっているわけでもない。
そんな環境でも育つ植物は多い。浅い寿命ではあるが、鮮やかな黄緑色に染まる木々達は山を美しい景色に変えていた。
だが、そんな景色の一角で、けたたましい轟音と剥き出しになった岩肌の目立つ場所があった。
そして、その場所を『岩肌にさせた』戦いが、今決着を迎えようとしていた。
「呆気ないもんですね……」
「や…やめ…て……!」
「おや?まだ意識があったんですね?可哀想に。暗黙の世界にいた方が楽な場合もあるんですよ?」
その周辺には、一体の魔族と地に伏せる二人の少女がいた。
一人は黄色のツインテールの少女、もう一人は檸檬色のショートカットの少女だ。
そしてその二人を空から見つめる魔族、ヴァーラ。
先日エル達が対峙した魔族の一人であった。
「も…戻れ!『デュランダル』!」
意識のある黄髪の少女は、自分の手から3メートルほど先に転がる魔武器である剣を手元に寄せ、しっかりと握った。
「見苦しい。無駄な抵抗は己を苦しめるというのに……」
「だ、黙りなさい……!」
「大口を叩くなら立ち上がってみたらどうです?」
「くっ……!ぁ……」
少女は渾身の気力を振り絞った。だが、身体はすでに限界を迎えており、直ぐに脱力をせざるを得ないほどだった。
(だめ……意識が………)
尋常じゃない程の眠気が彼女を襲う。瞼を必死に閉じないようにするが、彼女には既にそんな力は残っていない。
「限界のようですね。では先にこのこの少女から殺しましょう。」
(だ、だめ……!ミーシェ…!)
今のヴァーラに慈悲の感情は無い。容赦ない心を持つ彼に人間を殺すことは蟻を踏むのと同義であった。
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