番外編 ~須藤司の事情~

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思えば、この時の俺はかなり彼女に対し冷たい反応をしていたと思う。 まあ、笹山部長に伝えられていた彼女のスペックの低さと初対面で見せた情けのない反応に辟易したのも否めない。いっそ冷淡なほどに現実を突きつければ泣きそうな顔をし、胎も括れず無理だ何だと喚く。正直コレを俺が見たところで成長などするものか、とすら思った。 おまけに新人研修の時に教わった筈の、社会人として当然の『報告・連絡・相談』すら頭に入っていなかったのだ。 ――どうせ一週間も保たん ミーティングルームを出た俺は苛立ち紛れの溜息を吐き出すと、午後の予定に思考を切り替えた。 外廻りに出るため、エレベーターホールで片手にビジネスバッグを提げた状態で腕時計を確認すれば、針は13時半を指そうとしていた。 午前は大倉の事で元々時間を取っていたため、今日はこの後帰社できるかどうか、といったところか。 ふと、昼食後にデスクに荷物を取りに行った時のことが思い出された。 「あ、おかえりなさい、お疲れ様です」 引っ越し作業は素直に行ったらしい、今まで空席だった俺の隣のデスクに彼女は座り、ぺこりと頭を下げてきた。 その声は緊張を隠せないようで固い。しかし、先ほど見せていたような情けない雰囲気は消えており、瞳は真っ直ぐに俺に向けられていた。 「覚悟もできた?」 そう問いかければ、ぴしりと背筋が伸び、肯定を返す。まあ、語尾に「多分」が付いたが。 だがその反応は、悪くない、と思えた。恐らく昼の間に安堂がどうにかしておいてくれたのだとは思うが、いつまでもグズグズとされるよりはずっと良い。 パソコンのメールのチェックをしながらそんなことを考えていると、唐突にその問いは投げかけられた。 「須藤さん、目が悪いんですか?」 まさに、画面が見にくいな、と感じた矢先の言葉だった。
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