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少し驚いたように、
そして照れくさそうに彼は笑う。
「変な事、言ってもいいかな?」
「?なんでしょうか?」
「今、僕の後ろに居る君に振り返った時にね、
なんだか、ずっと前から、君と一緒に居る気がしたんだ。」
一瞬。言葉を理解出来ずに戸惑った。
「今日会ったばかりなのに、変だよね?」
照れくさそうに彼は微笑む。
息が止まりそうになる。
「ごめん、変な事言ったね。忘れてくれる?」
一台のタクシーが、永澤さんのすぐ脇に、横付けして停まった。
ハザードランプが、チカチカと点滅を続けている。
「森元さん、お先にどうぞ。」
彼がドアを掴み、待ち構えていた。
オレンジ色のランプが、私と永澤さんを同じ色に染めている。
胸の高鳴る鼓動よりもずっと遅い光の点滅が続く中、私は彼に一歩近づいた。
彼との別れの挨拶を告げるためでも、
彼が呼び止めたタクシーに乗り自宅に帰るためでもない。
「永澤さん。」
彼の名を呼ぶ。
「帰りたくない」
私の気持ちを告げる。
どうかこの気持ち。あなたに届いて。
(Vol.5 完)
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