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☆☆☆
「もう直ぐ挙式始まるぞ。」
....と、小栗が声をかけてきた。
胸にピンク色のポケットチーフを差し込んだ、シャンパンシルバーの上質なスーツ。
髪はほんの少しだけワックスで脇を固めてるせいか、
いつも以上に顔立ちがシャープに見える。
「ほら、早く」と言い小栗がベンチに座ったままの私に手を差し出す。
会社の同僚である皆元 みどりちゃんの挙式がもう直ぐ始まる。
彼女は、もう直ぐ「阿部さん」になるんだ....。
私は淡いピンク色のシフォンドレスを身に纏い、
肩に掛けていたスパンコールが散りばめられたラベンダー色のショールの裾を掴んで、
小栗の差し出した手を握り、立ち上がった。
「今日は、かなり日差しが、照り返して暑いな。」
小栗はそう言って、冷房の効いた式場のウエイティングフロアから、
緑の生い茂るチャペルまでの道を颯爽と歩き始めた。
「みどりちゃん、体調、大丈夫かな...」
お腹の大きな彼女が、照りつける太陽の下で長時間立ったままでいるのは、体の負担になるだろうと思えた。
小栗が、黒い日傘を取り出して私に差し出す。
途端に、光が遮られて暗い影が生まれた。
「おまえも気をつけろよ、ぶっ倒れないようにさ。」
小栗が微笑み、彼の差した傘の中に一歩足を踏み入れた。
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