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……キズナが天に還ってから、半年が過ぎた頃。
未練を残す霊が後を絶たないこの現世で、1人の男がある土地を目指し、小道を歩いていた。
その男は黒い布に身を包み、手に持っている大鎌を弄びながら歩いている。
彼の横では、小さな黒猫が真っ黒の羽根をパタつかせ、大きな花束を抱えながら優雅に飛んでいた。
「ソウマ、まだ先だったかしら?」
その黒猫が不機嫌そうに尋ねた。花の重さで黒猫の体が上下に激しく揺れている。
「あぁ、もうちょい。悪いな、ソラ」
ソウマが気遣わしげにソラを見ながら答える。その言葉に、ソラが小さなため息をついた。
――懐かしいな。この土地に来たのは、ちょうど1年ぶりだ。
ソウマは、目を細めながら周りを見渡す。
去年の今日も、一昨年の今日も、そして遠い昔も……ソウマは、欠かさずこの土地を訪れていた。花束を持って。
しかし、この土地も随分変わってしまった。
かつての生まれ故郷。ここは訪れる度にどんどん変わっていった。
木々は切り落とされ、道が舗装され……次々と建てられては、ひしめき合う高層ビル。
そして、排気ガスをまき散らすたくさんの車や、あの頃には想像も出来なかったような人の数。
見慣れた城下町も、大きくそびえ立つ城も、季節を彩っていた美しい山々も……もう、どこにも見あたらない。
「さ、ソラ! 到着!」
道路を歩いていたソウマが突然立ち止まり、陽気に言った。
そこには荒れ果てた大きな空き地があった。高い家に囲まれて日当たりが悪いせいか、草などほとんど生えていない。
あるのは、周りに並ぶ家よりも身長が高く日の光を取り入れることができる数本の木々だけ。
「えーと……」
ソウマが細い道路から空き地に入り、中央に向かって歩いていく。
そして、さっきまで立っていた道路から10歩ほど進んだところで急に立ち止まった。
「……この辺りだな。ソラ、ここ! ここに、花置いて!」
ソウマが自分の足元を指差しながらソラに呼びかけた。
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