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私は、兄さえいれば、何も要らなかった。
その大切な人でさえ、奪われた。
「...巴殿!風雅殿が...風雅殿が...」
とても寒い日だった。今宵の月は、とても美しいが、儚さを感じさせていた。兄に逢いたいと心から願っただけなのに......
「...亡くなりました...」
とても辛そうに告げられた。
「えっ...?!」
耳を疑いたくなったが、その方は、兄の親友で、悪い冗談を言う様な方ではない。
「...主が都の屋敷に戻る途中、盗賊に襲われ...」
その先の言葉を聞くのが、辛かった。
「...主を護る為、風雅殿は...」
「イヤー!!嘘よ...兄さん、帰って来るって約束したの...嘘でしょ」
「...真実です...巴殿...」
信じたくなかった。悪い夢を見ているだけ、そう思いたかったのに、やっぱり現実だった。
「...イヤー!!...信じない...信じたくない...」
泣き崩れた。
「...私だって、信じたくない!だけど、彼は...」
いつもの“大丈夫”の言葉を言い残し、果敢に盗賊に向かったらしい。
その話を聞いて、私の中で、何かが音も立てずに崩れ落ちた。
私は、壊れ、狂ったように叫びながら、家を飛び出していた。
「...兄さんの...バカ...」
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