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兄が動くわけもなく、冷たく、もう私に笑いかけてくれることも、話す事すら出来ない。兄の早過ぎる死に、頭が追い付かない。
死んだことを解っているのに、でも、信じたくなくて
「兄さん...。兄さん、私を一人にしないでよ!約束したじゃない!ずっと...一緒って...兄さん、兄さん、どうしてなのよ!...一人にしないでよ!......兄さん。」
私は泣きじゃくり、兄の死を受け入れることが出来ない。そんな私の姿を村の人は、哀れにも思い、掛ける言葉すら見つからず、ただただ、見ているだけ。
近所のおばさんの一人が
「巴ちゃん。ここに居ても、体を壊すだけだから、中に入りましょう。」
そう声を掛けて貰ったが、私はそんな気になれなかった。暫く、様子を見ていたくれたが、おばさんも他の村の人達も家に帰って行った。
皆は、優しい言葉を掛けてくれた。
「何かあれば、訪ねておいで」
「早く帰るんだよ」
などと、だけど私の気持ちはなかなか踏ん切りがつかず、帰れなかった。
私達は、村の人達から見ても、とても仲の良い兄妹だった。兄を慕う姿は、印象的で、これからもずっと続くと誰しも思っていた。それが突然の訃報だったので、村人も悲しい気持ちになっていた。
「...巴殿。そんなに泣かれては、風雅殿も浮かばれませんよ!」
そんな私を心配してくれた貴史様の言葉すら、私の心には響かず
「兄さんと離れたくない。...兄さんがいないなら、私もいっそ...」
私の心は壊れている。狂い、自らも自害し、兄の元へと急ごうとした。懐から、懐刀を取り出し、首を切ってしまおうとした。
「巴殿、何をなさるのです!止めなさい!」
彼に止められた。
橘貴史(たちばなのたかふみ)様は、兄の大親友である為に、私の事も放っておけなかったのだろう。
「...離して下さい!...生きている理由なんて、解らない...。兄さんの傍に、逝きたい。だから、死なせて......」
彼が阻む手をすり抜け、刀が首に掠めたかのように思えたが
「嗚呼......どうして??どうして、邪魔をするのですか?!!」
気が付けば、私の首から血が流れ落ちていた訳でなく、貴史様の腕から、血が滴っていることに気が付いた。
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