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「う、……うわああああああああああああ!!!」
少年は体を縦に切り裂かれていく感覚に叫びをあげる。
(や、やられた……こんな簡単に……【私】、死ぬのかな……)
そんな少年の予想とは裏腹に、体に痛みはない。
「これにてお仕舞い」
キリが斬切を鞘に収めると、
少年の帽子が、服が、
バラバラになって吹き飛んだ。
「え……き、キャーーーーッ!!」
少年は体を手で隠しながらうずくまる。
「やっぱりそうだったか、貴族のお嬢ちゃん」
少年、いや、少女を見下ろしながらキリはそう言った。
「な、なぜ私が女だと事前に……それに身分のことまで……」
少女は悔しそうにキリを見上げる。
「女という事は何となくだ、他の盗賊たちを男と一括りにしていたからな、同性ならそんな言い方はしないだろうと思っただけだ」
キリはさらに話を続ける。
「貴族とわかったのは激情しても崩れなかったあの構えだ。崩れないという事は、それほど誰かに教え込まれたという事、短剣だったが、あれはレイピアのような細い剣を扱う構えだ。そんな武器を盗賊は使わないだろう。だから、君が貴族だろうという事、トドメには突き、もしくは魔法を使うだろうという事が容易に想像できた」
「くっ……殺せ……」
少女は悔しさを噛み殺して俯きながら言う。
「まぁ、魔法と突きを組み合わせてくるのは予想外だったけどな、ほら着とけ」
キリは自分の羽織を脱いで少女に掛けた。
「こ、殺さないのか?」
少女が恐る恐る聞く。
「あぁ、殺さないよ。殺すって事は反撃、復讐を恐れるやつがすることだ、俺はそんなもの怖くないし、絶対に負けないからね」
キリは自信満々にそう言う。
「ところで、お嬢ちゃん。貴族のあんたがなんでこんなところで盗賊なんてしてるんだ?」
「うっ……それは……」
キリの質問に少女は口ごもる。
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