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朝、職場に着くとすぐに、私と碓氷は上司の長谷部さんに呼びだされた。
そろそろだと思ってはいたが、手渡されたのは人事異動先の書かれた一枚の紙。
異動先とはいってもメンバーの選出が決まっているプロジェクトなので選択肢は三つのグループのうちどれかだ。
誰の下で、どんなメンバーと、何を具体的に研究していくのか。
自分のどんな技術や知識が必要とされたのか。私たちにとって重要なのはそれに尽きた。
結局、私と碓氷は異なるグループとなり、碓氷は今の上司である長谷部さんについて化学的な解析を中心とした仕事を任されることになった。
碓氷は私よりもずっと化学分野に強く、大学でも化学成分の解析研究をしていたので、以前までの仕事と併せて適任とされたのだと思う。
私はと言うと、長谷部さんよりも年齢は幾分若いが、A社でやり手と評判な環さんがまとめ役を務めるグループへと行くことになった。
私の専門であるより生物学的な手法での解析を任された。
「碓氷はこれからも引き続き頼む。
立花は、環くんの下でしっかりと頑張ってくれ。
彼は気さくだし、私よりも若くて考え方も柔軟だ。きっと学ぶところが多い。
別のグループだとは言っても、目的は一つの同じプロジェクトのメンバーだ。
ラボも近くになるだろうし何かあればいつでも頼ってこい。」
そう言って長谷部さんは私に笑いかけてくれた。
眼もとにはうっすらとしわが入るが、40代前半には見えない若々しく力強い表情で、とても頼もしかった。
「ありがとうございます。今まで長谷部さんの下で一緒に働けて幸せでした。
沢山学ばせて頂いたことを活かして、次の仕事に繋げたいと思います。」
私はそう言うと礼をして部屋を出た。
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