第1章 プロローグ

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「便利屋・榊」  第1話 薫    トントンと小気味いい包丁の音が、台所から聞こえてくる。お味噌汁の良い匂いで、二日酔いの目がやっと覚めた。 もう起きなきゃと思いつつも、このまったり感に浸っていたい。 忙しなく廊下を歩く音、案の定、二度寝は無理そうだ。 「薫・・夕べは何時に帰ってきたの?」 ノックもせずに入ってきた母は、思いっきりカーテンを開けながら聞いてきた。 「ニャーォ・・」 私のベッドに上がりぬくぬくしていた猫のななこだが、迷惑そうに部屋を飛び出して行った。 「頭痛い・・おはよう。何時だったかな・・2時くらいかもね。」 軽口程度に言っておく。 夕べは仕事。いくら洒落たレストランだって、職務を忘れるくらい、飲んだりしない。 例え、相手の経費に入っていたとしても、気を張っていないと問題が起きかねないのだ。 「遅かったんだね。何かもめたりしたのかい?」 今回の仕事は、母の関係者からの依頼だというのに、かなりハードだったとも言えないので、やんわり笑って二日酔いのせいにしてごまかした。    それは大学教授の火遊び。 学生の女の子に手を出したが、真剣になられたため、彼の病弱な奥さんに扮して3人で食事をすることになったのだ。 最初は訴えると息巻いていた彼女も、優柔不断な彼の代わりに、謝る私に対して、最後には泣いて同情するまでになった。 我ながら、いい演技だった。 image=478289305.jpg
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