第26話 真意

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 基本的に課長職以下の役職における人事は職場に決定権があり、人事部からの承認はすぐに下りるのだ。  いまだにその書類がここにあるというのは、どういうことなのだろう?  忙しくて出し忘れたのだろうか?  そう思いついてから、安藤に呼び出された時のことを思い出した。  そうだ、安藤は主任補佐の件を知っていた。  ということは、安藤までは書類がまわされたということだ。  嫌な予感がして、そのファイルをどうしても開きたくなった。  一瞬の逡巡の後に、恐る恐るファイルを開く。  思ったとおり、安藤のところで申請不可として返却されていた。  どういうことなのよ。  そんなにわたしをスパイにしたいわけ?  とはいえ、その後、安藤からは全く音沙汰がない。  スパイに仕立て上げない代わりに主任補佐にもしないということなのだろうか。  あの夜は、思い切り拒否して逃げ出した。  プライドの高い安藤が怒っていないはずがない。  もしかすると、嫌がらせのつもりなのかもしれない。  わたしは、個室になっている部長室を静かに睨み付けた。
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