924人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
第41話 本名
夜になり、凌生との待ち合わせ場所である本屋に来ていた。
オフィス街にある本屋はビジネス書が充実している。
無意識に経済書の棚の前に立っていた。
海外の雑誌に目を走らせる。
ネクストテクノロジーについて書かれている雑誌に手を伸ばしかけたところで、声を掛けられた。
反射的にその手を引っ込める。
「何かいいのあった?」
凌生はわたしが取ろうとしていた雑誌に目を走らせた。
「ううん、特には……それより、あのね、わたし凌生に……」
「あー、腹減ったー」
わたしの言葉を遮り、くるりと背を向けると、凌生は早足で店を出ていく。
慌ててその後ろを追いかけた。
「待って、凌生、きちんと話したいことがあるの」
「…………」
外はもう暗くなっていた。
石畳の広いパテオには等間隔に楠が植えられ、優しい葉音を奏でている。
時計のオブジェが夜七時を知らせる音楽を流していた。
最初のコメントを投稿しよう!