鎖歌<クサリウタ>

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冬の厳しい寒さは通り過ぎたものの、まだ肌寒さが残る住宅街。 夜の闇に包まれた道路には、人ひとりとして見当たらない。立ち並ぶ家の明かりは消え、皆寝静まっている。 そんな夜中、小さな路地を黙々と歩く1人の女性がいた。長い黒髪をなびかせ、毅然とした足取りで歩いている。 少しでも目を離せば、彼女の姿を見失ってしまうだろう。何故なら、彼女はこの闇に溶け込むほどの漆黒の布を纏っているから。 彼女の白く透き通った肌、そして右手に握られている大鎌の青白い刃だけが彼女の存在を闇から浮かびあがらせていた。 突然、甲高い声が響いた。 「キズナー、ツキ眠い。少し休もうよー」 小さい黒猫が彼女の横を飛んでいる。背中の黒い羽根をパタつかせ、尻尾が3つに分かれているという不思議な黒猫。 完全に闇と同化しているツキを見つめ、キズナが大きなため息をついた。 「しょうがないな。じゃあ……ツキ、あそこで休もう」 そう言って、歩いていた道の先にある小さな公園を指差す。 と同時に、ツキが歓声を上げ、公園に向かって飛び立っていった。 公園に入ったツキは、嬉々として芝生を踏んで廻る。寝床にできそうな柔らかい草を探しているのだ。 キズナが公園に辿り着いた時には、ツキは自分の寝床を確保し、丸くなって眠りの態勢に入っていた。 「こういう時だけ、行動早いんだから」 すでに寝息を立てているツキを呆れ顔で見下ろしながら、独り言のように呟いた。 ――ツキが起きるまで、私も少し休憩しようかな。 そう思い、辺りを見渡す。公園内に並ぶ様々な遊具を品定めし、キズナはゆっくりと歩き出した。 向かった先は、ジャングルジム。 その手前まで来たところで、軽く地面を蹴った。その瞬間、キズナの体は羽のように浮き上がり、ジャングルジムの頂上に着地する。 キズナは脇に大鎌を置きながら座り込むと、頭上に広がる大空を見上げた。 満点の星空。その中に青白い半月が妖しく浮かんでいる。そんな月を見上げながら、キズナは物思いに耽っていた。 ――そういえば……あの日も、こんな月が出ていた。 3ヶ月前の、忘れられないあの魂。
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