鎖歌<クサリウタ>

22/23
32人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
「支えられて、か」 キズナがそう呟いたとき、ふと脳裏に1人の人物が浮き上がった。 顔はぼやけて見えないが……セミロングの黒髪を持つ、セーラー服姿の女の子。 彼女は、こちらを向きながら優しく頷いている。誰かの愚痴でも聞いてくれているかのように。 次の瞬間、キズナの意識はすぐに現実に引き戻された。 ーーなに?今の映像は。 そんなキズナの疑問を、ツキの甲高い声が打ち消した。 「だからー、求め合って支えを見つけたとき、ヒトは初めて強くなれるんだよ!」 死神からの受け売りを並べ終えたツキは、誇らしげに胸を張っていた。まるで、全て自分で考えたかのような得意げな顔だ。 「そっか。いつか、分かるときが来るかな? 私にも」 キズナが空を見上げた時、突然ツキが叫んだ。 「キズナ!すごい速さで霊が近付いてくる!」 ツキが尻尾を立てながら周りを見渡した。その次の瞬間、目の前に1人の男性が現れた。 男性はキズナに背を向けて立っていたため、キズナの存在には気付いていないようだ。 ツキが尻尾から得た霊の情報をキズナに耳打ちした直後、先程の男性が呟いた。 「ここは、俺があいつと……でも、なんでここに?」 「魂がここを望んだからよ」 キズナが男性を見つめながら答えた。 その声に飛び上がった男性は振り返り、怪訝そうな目を向けた。 しかし、キズナはその視線にかまうことなく話を続ける。 「天に向かえない場合、魂は強く望んだ場所に移動する。例えば、思い出の場所や大切な人の元へ、ね」 男性は呆然とキズナを見つめ、口を半開きにしたまま立ち尽くしていた。 「死神……?」 キズナの容姿を見て、そう考えたのだろう。しかし、キズナは小さく首を振る。 「違うわ。私は、単なる死者よ。ただ、"未練切り"の役目を与えられているだけ。死を統率する死神様からね」 堅い表情をしていたキズナが笑いかけ、ジャングルジムを離れて男性の前に着地した。 「はじめまして、松永 弘樹(まつなが ひろき)さん。私は、死神様の使い……魂の仕分け人。名は、キズナ」 ――この男性も、大切な何かを残して望まぬ死を迎えたのだろうか。 未練の鎖に縛られ、天に向かえない憐れな魂達。 私が守るの。もうこれ以上、悲しい結末を辿る魂は見たくないから。 これが私が出来る唯一の償い。 彼等が心安らかに天に還れる、その日まで。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!