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 そう辰星が言ったとき、ドンッと地面が突き上げられた。  ハッと振り返ったその視線の先で、巨大な火柱がごうとばかりに立ち上がっていた。人々のざわめきがぴたりと止み、不気味なまでの沈黙が辺り一帯を包む。  再び、ドンッと地面が揺れて新たな火柱が御門の奥から立ち上がったとき、今度は耳をつんざくような悲鳴が一斉に沸き起こった。  冥利の館が焼け落ちてしまう……そのことに、人々は恐慌をきたしてしまったのだ。  いまから千年近くも昔のことだと言われている。冥利の館が、最初にこの地に建てられたのは。  それは、東の大陸が海に沈んで亡び、そこから逃れてきた冥利の姫とその従者である星読み師たちが、この地を新たな住まいと定めたからだ。以来、星を読み人々を導く冥利の姫は人々の信任を集め、人々の寄進によって冥利の館は増改築を重ね一個の城となっていったのだ。  いまでは、この北の大陸の東南端に位置するこの小さな国に住まう者たちは誰でも皆、生まれてすぐその生年月日時を冥利の館に届け出る。そして冥利の姫に生まれ星を読み解いていただき、その生まれ星に応じた〈祝福〉を賜る。人々が届け出た生年月日時は石版に刻まれ、館の中に永続的に保管される。そして、人々が己の道に迷ったときは、再び冥利の姫に願い出て〈導き〉を賜ることができる。  授けられた〈祝福〉や〈導き〉は、人々にとって己が生きる指針であり、また道を照らす光でもある。冥利の姫はそうして人々の暮らしを、心を、もう何百年もの間支えてきたのだ。例えその冥利の姫が、名のみの存在になっていようとも。  しかしいま、その支えの象徴である冥利の館が失われようとしている。  辰星は、琥珀と李古の悲鳴を聞いたような気がした。だが自分の鼓動が余りにも激しく耳の中で鳴り響き、周囲の声など最早よく聞こえてはいなかった。  まさか……まさか、冥利の館が、この大きな城が焼け落ちるなどと……! あそこには、伽絽がいるのに! 伽絽が、暮らしているというのに!  ついに、辰星は〈眼〉を飛ばした。
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