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いままで何度、冥利の館の中へ〈眼〉を飛ばし伽絽の姿を捜してみようかと思い悩んだことだろう。けれど、辰星はどうしてもそれができなかった。伽絽にもう一度会いたい、その一心でこの中洲島(なかすしま)まで文字通り這い戻って来たと言うのに……それでも辰星は怖くて……怖くて、どうしてもそれができなかった。
しかしいまはもうそんなことを言っている余裕などない。
辰星の眉間から飛び出した〈眼〉は、はるか上空から巨大な冥利の館を視下ろしている。
その光景に、辰星の背中を冷や汗が伝った。一体どうなっているんだ? 本当に、ありとあらゆる場所から火の手が上がり、黒煙が立ち込めている。いくらなんでもこんな短時間で、ここまで火が回ってしまうなど普通ではあり得ない。それでなくても、じっとりとした空気が肌に貼りつくような蒸し暑い夜なのだ。これはもう誰かが意図的に……。
呆然とそれを思った瞬間、辰星の身体がぞわっと総毛だった。
伽絽……!
どうか無事でいてくれ!
飛ばした辰星の〈眼〉が、炎の真ん中へと一気に降下していく。辰星の〈眼〉は、本当にただ視るだけだ。炎の熱さも煙の臭いも感じない。だからなんの迷いもなく、辰星は〈眼〉を奥の院目指して滑空させる。幼いあの日、伽絽と出会ったその場所へ。
いくつもの建物がいくつもの渡り廊下でつながれた、まるで迷路のような奥の院の中に、その白い庭はある。砕石を敷き詰め、小さな池がしつらえられた中庭だ。そこで辰星は伽絽と出会った。まさにその場所に〈眼〉を飛び込ませ、辰星は周囲を視回した。
さすがに奥の院にはまだ火の手は回っていない。それでも慌ただしく黒衣姿の人々……奥の院に住まう星読み師たちが駆け回っている。その腕に書物や石版をいくつも抱え、なんとか運び出そうとしているようだ。
辰星は、どれだけ姿形が変わっていようと、一目で伽絽を見分ける自信があった。あれから十六年と三月と三日も経っている。伽絽もとっくに一人前の星読み師になっているだろう。そう思い、辰星は黒衣の人々の、その黒頭巾の下の顔を視て回った。しかし、伽絽の姿は発見できない。
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