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 胸に下げた守り袋を着物の上から握りしめ、後ろ髪を引かれる思いで辰星は、御門を背に人波の中をじりじりと進む。  その辰星を、先に見つけたのは琥珀だった。 「辰さん!」  よく通るその声に、辰星はハッと顔を向ける。 「よかった、辰さん無事だったんだね!」  どれだけ人が溢れていようが、白い手を振るその白い顔を見間違えようもない。 「琥珀姐さん、ご無事で!」  黒髪と黒い瞳の人々がごった返すその中、金褐色の長い髪にその名の通り琥珀色の瞳をした琥珀はその美貌と相まって、このような折ですら多くの者の目を惹いている。  辰星が伸ばした長い腕に、琥珀がしっかりと掴まった。 「お怪我はありませんか?」  慌ただしく問う辰星に、琥珀はまくしたてた。 「あたしは大丈夫だよ、けど李古ちゃんとはぐれちまって! ああもう、ほんのさっきまでしっかり李古ちゃんの手を握っていたのに、向こうの角からどっと溢れてきた人たちに押し流されちまったんだよ!」  辰星は琥珀を庇うように自分の腕の中に引き寄せ、人波に流されないよう壁際に身を寄せる。 「李古姐さんがどっちの方へ流されていったか、わかりませんか?」 「向こうから人が流れてきたから……多分、あっちの方だと思うんだけど」  琥珀は余程に奮闘していたのだろう、結い上げた長い金褐色の髪はさんざんに解け、その美しい顔も煤で汚している。おまけに華やかなお座敷衣装の裾をからげ、緋色の蹴出しをさらしているのに一向に気にした様子もない。 「それで、必死に李古ちゃんを呼んで捜してたら辰さんのこの頭が見えて」 琥珀は少し安堵したように笑う。「よかった、こんなにのっぽになっちまったのも、ちっとも無駄じゃなかったねえ」  そう言われて辰星は思わず苦笑してしまった。  琥珀も目立つが辰星も目立つ。何しろ周囲から頭ひとつ飛び出してしまうほど、ひょろりとした長身だ。おまけにその髪はくしゃくしゃの巻き毛なのだから。辰星が自分で適当に切り揃えている中途半端な長さのその黒い巻き毛頭は、直毛の多い東海人の間ではかなり珍しい。辰星自身は、どうにも悪目立ちしてしまう自分の外見が好きになれず、つい背中を丸めてしまうのだが。
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