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「なに?あんた準夜なの?てっきり深夜勤かと思った」
「違うよー。今、深夜スタッフは重症患者に付きっきり。だから、松波さんの転棟だけ私が残って受けようかと思って」
唯は、私が書いた文字を目で追いながら苦笑いを浮かべる。
「ははっ!私と一緒じゃん。ねえ、これ終わったら帰れるんでしょ?私お腹空いちゃってさー。だから行こうよ、ヒゲのおっちゃんの店!」
「え?この後にヒゲのおっちゃんの店に?」
「ハイハイ決まりー。行こう行こう!おっちゃんの店にレッツラゴー!」
はしゃぎながら、帰る支度をするべく手に持つボールペンを白衣のポケットに押し込んだ。
「何がレッツラゴーだよ。その前に、ちゃんと松波さんの採血オーダーの確認してから仕事あがってよ。あんた、私が送り相手ナースだからって押し付けようとしたでしょ。ほら!電カル貸してあげるから自分でやりなさい!」
親友は、仁王立ちポーズで机の上にあるノートパソコンを指差し、「ほれほれ!」と私の尻を叩いた。
「やっぱ見逃してはくれんのか。全く唯は厳しいのー」
ふて腐れた表情を浮かべ、誘導されるがま電カルに向かい自分のパスワードを打ち込む。
「確認したらついでにラベルも出しといて」
私が打つキーボードの横に申し送り用紙を置き、唯は扉に向かって歩きだす。
「あ、寮に戻ったら電話して」
電カルのオーダー画面から視線を外し、唯の背中に声をかけた。
「了解」
唯は、扉を開けながら振り返り、軽く手を挙げ微笑んだ。
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