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深呼吸をして、和馬の横で微笑む彼女の顔に人差し指を押し当てた。
「梨花さん、ごめんなさい。和馬の側にいるのはあなたじゃないから。和馬から離れたあなたがいけないのよ」
......体が離れたら、心も離れていく。
みんな同じよ。
小さな声でそう呟き、きつく唇を噤んだ。
あの夜、初めて和馬の腕に抱かれたあの夜、私はこの写真に写る梨花さんの存在に気づいてはいなかった。
私は、梨花さんの前で、この写真の前で和馬に抱かれたのだ。
あの夜から、この醜い女の争いは始まっていた。
「本気になったら駄目だ。これは、初めから期限付きの恋愛ゲームなんだから」
この半年近く、ずっと自分に言い聞かせてきた。
しかし、次第に深まる和馬への想い。
触れ合えば触れ合う程に熱くなる身体。
そして、正比例して心の奥底から湧き出る醜い感情・・・彼女への嫉妬心。
「梨花さん、お邪魔しました」
写真から指を離し、苦笑いを浮かべた。
鞄を肩に掛け、和馬に貰った合鍵を握りしめて玄関へ向かう。
ヒールの高い白のサンダルを履き、逃げるように外へ出た。
肌に突き刺さって痛いほどの強い陽射し。
街のあちらこちらから聞こえる煩い蝉の鳴き声。
むっとした蒸し暑い空気が私の体に纏わりつく。
鍵を閉めてエレベーターへ向かうと、足元には腹を向けて動かない蝉の亡骸が落ちていた。
「たった七日しか生きられない短い命。何のために生まれて来たの?可哀想にね...」
可哀想...
いつかは私も不要な存在になり、そして虚しく消えていくのか...
足元に転がる蝉の亡骸を見下ろしながら、行き場の無いため息をついた。
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