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「神崎さん、悪いけど松波さんの転棟だけしてから勤務上がってくれる?」
今夜のリーダーである倉野さんが、3時に交換する点滴を詰めながら私に声をかけた。
時計は深夜1時を過ぎていた。
準夜勤の私はとっくに仕事を切り上げ、今頃温かいお湯の中で肩でも揉みほぐしている時間だ。
「分かりました。5病棟が受け入れオーケーみたいなので今から行ってきます」
準夜勤と深夜勤との引き継ぎ間近で起きた急変と、重傷患者の緊急入院で、深夜の病棟はスタッフ達が慌ただしく走り回っていた。
重傷患者を受け入れられる、高度医療設備が整った部屋は既に満床状態。
人工呼吸器を使用できる個室にいた、重症肺炎と急性腹症で入院生活を送っていた松波さん。
彼女は数日前に急性期を脱し、状態が安定しているため、事情を話し隣の病棟の個室へ移動して頂く事となった。
「松波さん、すみません。こんな夜中にお引っ越しさせちゃって」
私は申し訳ない思いで松波さんの車椅子をゆっくりと押した。
「いいよいいよ。私も丁度トイレ行こうかと思って起きてたから。それに、今夜は5病棟の方が静かに眠れそうだからねえ」
松波さんは、いつもの様に元気なオバちゃん笑いをしてくれた。
確かに、今夜はうちの病棟のバタバタは暫くおさまらないだろうな・・・。
松波さんの言葉に頷き苦笑いを返した。
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