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ナースステーションに近づくと、疎らに聞こえる心電図モニターの音だけが響き渡っている。
松波さんの車椅子をステーションの手前で止める。
「少し待ってて下さいね。担当のナースを呼んできます」
私は松波さんの正面に回り言葉を掛けると、松波さんが笑顔で頷いた。
私がナースステーションに入ろうと扉の入り口まで来た所で、酸素用の蒸留水を持ったナースがその中から出てきた。
「なんだぁ。綾子が転棟に来たんだ。私が申し送り聞くから中で待っててよ」
蒸留水を持ったまま、笑顔で私に話し掛けるこのナース。
彼女の名前は、櫻井 唯〈サクライ ユイ〉私の高校時代からの親友。
二人で名古屋の看護学校へ入学し、卒業後はまた二人一緒にこの病院に就職した。
唯とは、高校時代からお互いに何でも話せ、馬鹿騒ぎもでき、本気で喧嘩もできる腐れ縁の仲。
一見、おっとりとしていておとなしいタイプに見られる彼女だが、何しろこの私の親友だ。
口を開けばサバサバしている毒吐き女。だから、長年つるんでいられる。
「じゃあ、松波さんをよろしく。松波さん、この看護師は私の友人なんで、何でも遠慮なく我がまま言っちゃっていいですからね」
私は車椅子のハンドルを親友に託し、冗談めかした口調で坂本さんに笑いかけた。
「そう、神崎さんのお友達なら心強いわね。名前は・・・櫻井さんね。煩いおばさんだけどよろしくね」
松波さんは、胸に付けられた唯のネームプレートを見て軽く頭を下げた。
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