ある宿命

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 暗い部屋でY氏は落ち着かない様子で椅子に座っていた。時折、不安そうに辺りを見渡しては、自分の腕時計で時間を確認していた。時計の針は夜の十時四十分を過ぎようとしていた。 (あと、十分か・・・)  Y氏にとって、残り十分という時間は長く感じられた。正確には十数分であるが、その時、Y氏に運命が下されるのだ。これは、避けようもないY氏には逃れられない宿命なのだ。 (だから、嫌だったんだ。こんなの・・・)  Y氏は今頃になって、自分がしてきたことを後悔していた。  Y氏は殺人犯なのだ。しかも、三人も殺してきた連続殺人犯。動機には同情する余地はあるが、全ては手遅れなのだ。後悔するぐらいならば、人殺しなどしなければよい。だが、Y氏は自分に課せられた宿命からは逃れることができなかった。遺恨と宿命故に殺すべき三人を殺したのだ。 (だいたい、上手くいくはずがないんだよ・・・)  Y氏の犯行は警察に見抜かれぬほどに緻密に計算されたものである。しかし、どこかで綻びは出てしまうのだ。いや、出るようにし向けられていた。それも、彼の宿命だから。何より、一番の問題はY氏の犯行を大勢の人間に目撃されていることだ。顔は分からずとも、殺人を犯している場面は目撃される。あまりにも、お粗末な完全犯罪だ。  Y氏の知り合いには自分と同じように宿命によって犯罪に手を染めた者が多くいた。中には大勢に目撃されながらも完全犯罪をやってのけた者もいた。だが、そんな例はほんの一握りに過ぎない。大半、いや、ほぼ全ての犯罪は白日の下に晒されるのだ。  そして、問題なのは、その行く末に待つものが『死』である場合だ。死すら宿命に組み込まれていた。  しかし、当事者であるY氏には、自分がどのような運命を辿るのか分からない。できることなら生き延びたかった。その為なら捕まってしまった方がどれだけ楽なのだろうか。
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