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「Y氏さん。あなたの犯行は全て、バレているのですよ」
Y氏の宿命は探偵である、この冴えない男に犯行の全てを白日の下にさらされることにあった。自分が望まなくとも宿命は絶対なのだ。それでも、Y氏は少しでも宿命に抗おうとはする。探偵の推理に反論をしたりして自分が犯罪者ではないことを立証しようとした。それに、抵抗すればした分だけ、残り時間を減らすことができる。
そんな、Y氏の抵抗は大勢の人に見られている。刑事達にはでない。もっと、大勢の人にだ。大勢の人はY氏が追いつめられていく様を楽しんでいた。全く、残酷な連中である。
Y氏がどんなに反論しようと、宿命からは逃れられない。探偵は悉(ことごと)く、Y氏の犯行を見抜き、証言や証拠を突きつけてくる。
「こ、こんなはずでは・・・」
全ての真実が晒され、これ以上、反論することがなくなったY氏に残された手段は、犯行動機を言うことぐらいだった。Y氏自身は抵抗しているつもりなのだが、それすらも宿命に組み込まれているのだ。
Y氏は泣く泣く、自分の過去を漏らす。実際、Y氏は泣きたかった。残り時間はまだ五分はある。それだけの時間があれば、Y氏が死の運命を辿るには充分だから。
Y氏の苦しむ様を楽しんでいた大勢の人は、彼の過去を知り涙を流す。自分勝手にもほどがある。
「続きは署の方で聞こうか」
突然、黒縁眼鏡の刑事が語っている途中のY氏に言った。あまりにも、急だった。本来ならもう少し、動機を語る時間があってもいいはずだ。なのに、宿命は唐突にY氏の時間を早めてきた。
まだ時間は三分ある。このままでは、自分はどうなるか分からない。抵抗しようにも、この時間では逆らいようがない。こんな時だけ、普段はボンクラな刑事も力を発揮するからだ。下手に抵抗してベランダから転落死する。なんて結末は嫌だった。だからといって、この残された三分という余裕の時間に死ぬのも嫌だった。
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