ある宿命

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 過去、この宿命に逆らおうとした者は何人もいた。全員、死ぬのが嫌だったから。だけど、宿命に逆らった者は全員、例外なく存在を抹消された。宿命に逆らうということは、死よりもお揃い運命が与えられる。存在を抹消されては、もう二度と生き返ることもできない。生まれ変わる時の希望もなにも残されないのだから。  Y氏にできることは宿命を受け入れ、黒縁眼鏡の刑事に大人しく捕まることぐらいだった。  Y氏は力なく捕まって部屋から連れ出される。 (もうだめだ)  迫り来る時間に怯え、Y氏は全てを諦めた。絶望の中、部屋から一歩踏み出した時だ。  Y氏の耳に聞き覚えのある音楽が聞こえた。その音楽は全てを包み込んだ。 (ま、間に合った・・・!)  その音楽を聴いたY氏は初めて安堵した。どうやら、死の運命は今回、Y氏に降りかかることはなかったようだ。  しかし、Y氏は疑問に思うことがあった。連行されながらチラリとみた腕時計の時間はまだ二分ほど残っていた。音楽を流すには少々、早すぎるのではないのか。  その疑問はすぐに解決した。 ----ここで、番組からのお知らせです。今日放送しました水曜サスペンス劇場のサウンドトラックCDを抽選で五名の方にプレゼントします。お問い合わせは・・・。  天からの声を聞き、Y氏は笑みを浮かべた。 (そうか。今日は放送時間が短縮されていたのか・・・)  放送時間が短縮されたおかげで、Y氏は命拾いした。  こうして、今日も某テレビ局で放送されている二時間ドラマは幕を閉じた。私達が見ている、テレビの『役』の宿命というのも、なかなか、残酷なものである。
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