第一話 第四勢力の実情

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1 魔人のカテゴリーで分類される少年、高槻ジンは人生でも最大級の危機に陥っていた。 彼は第四勢力とも呼べる集団の中でもトップランカーの実力者だ。 四月より始まった『偽造』のための戦闘でも組織の中で一番の殲滅数を誇っている。 彼の左手はウイルス生命体に触れただけで『喰らう』性質を持っており、敵がアルファだろうがベータだろうがガンマだろうが、ものの数秒で捕食するほどだ。 そのため対ウイルス生命体として活躍し、たった三ヶ月間で組織内で知らぬ者がいないほどの有名人になっていた。 そんな彼が危機的状況に陥るほどのものが眼前に広がっていた。 ぐしゃ、と。 愛らしい顔を歪め、今にも泣きそうな女の子が床に転がっていた。 彼の名誉のために補足しておこう。 ジンが角を曲がった瞬間、向こうから走ってきた女の子とぶつかったわけであり、彼が女の子をいじめたとかそんな事実はどこにもなかった。 ジンも女の子も悪くはない。 が、だからといってこのまま放っておくことなどしていいわけがない。 (お、落ち着け俺。まだ泣いてないんだ。そう、決壊寸前だが、今なら何とかなる! そうだ、ここで男みせなきゃだろ高槻ジンッ!!) 女の子の年齢は六歳前後。 名前は確か波川みほ。魔女・波川美月の娘さんだったはずだ。 作戦で一緒になった時、待ち時間で写真を見せて貰った記憶がある。 (三〇越えの人妻から六歳の女の子にまで変態は手を出してたっつーことだよな。なんか腹立ってきた) ジンや美月たちを弄くるだけ弄くって死んだ『科学者』に対し、ふつふつと怒りを燃やすジン。 はっきり言って時と場合を考えるべきだった。 みほちゃんとぶつかる→ジンキレる→みほちゃん自分がぶつかったことでキレられたと誤解→四月から三ヶ月間、とにかく殺し合いばっかしていたジンの気迫は六歳児に耐えきれるものではなかった。 結果。 みほちゃんが盛大に泣いてしまった。
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