終章 人類最後の昼下がり

2/5
前へ
/40ページ
次へ
元女性自衛官・荒川松海は九ミリ拳銃をお守りのように握り締め、瓦礫の影に座り込んでいた。 彼女が『元』自衛官であるのには理由がある。 そもそも自衛隊どころか国自体が機能していないのだ。 それこそ『滅んだ』と表現していいほどに。 「ハァ、ハァ…………ッ!!」 極度の緊張によるのか、過呼吸のように喘ぐ松海。 始まりは未知のウイルスだったか。 空気、飛沫、血液など特定の感染経路を持たないウイルスは生物の構造そのものを変え、異形の者共を生み出した。 それこそ漫画やアニメに登場するような『ウイルス生命体』は過剰に強化された腕力や脚力、しまいには強酸にも似た溶解液さえ振るってくる。 そのウイルスは本当に『突如』進行する。 その背を預け、命を託していた戦友も『突如』怪物と成り果て、松海へと襲いかかった時もある。 それが始まり。 次は異世界人の侵略が始まったのだ。 『魔法』などというファンタジーを扱う彼らはオーストラリア大陸を宣戦布告なしに大規模魔法攻撃により焼き払った。 彼らは空間そのものに『穴』を作り、そこから侵攻してくる。 その『穴』もどこからともなく現れるため、彼らは自由に破壊を撒き散らし、悠々と帰還、あとは『穴』を塞げばこちらから侵攻することすら出来なくなる。 これが中間地点。 最後の勢力は失われたはずの大陸だった。 アトランティス。 遠い昔に海中深くへ沈んだはずの大陸は何の前触れもなく大西洋のど真ん中へと浮上。 オーバーテクノロジーとしか呼べない技術により造り上げた人形殲滅兵器が地球全土へ放たれた。 三つ巴の戦争は人類など無視して行われた。 ウイルスは戦況が悪くなれば好きなだけ人間などを変質させることで戦力を増強し、異世界人はそれを防ぐために『変質することで力を持つ前に』人間などを殺戮。アトランティスは単純に目につく生物は人間ごと根こそぎ排除していった。 人類の徹底抗戦は『ついで』や『巻き込まれて』、はては『気がつけば』死んでいたというレベルのものでしかなかった。 その命を燃やし。 その胸に抱いた想いのために。 何かを守ろうとした者たちは三勢力にとって『敵ですらなかった』。 そして。 国連や各国政府が機能停止し、ほぼすべての人間が死んだ現状で。 女性自衛官・荒川松海は無様に生き残っていた。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加