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「ちくしょう……」
腕時計は二時過ぎを示していた。
松海が何かをすがるように着ていた自衛官の迷彩服はズタズタに裂け、その下に覗く数多の傷からは血を流していた。
先程ウイルス生命体から逃げた松海は悔しさや怒りなどといった単語では表現できない感情に頭が狂いそうだった。
(愛梨が殺された。ジェームズと彰がその命を犠牲にして私が逃げる時間を稼いでくれた。そうやって私は生き残ってきた。こんな私のために仲間が殺された)
ウイルス生命体は驚異の再生能力を誇る。
核兵器で消し飛ばしたとしても数年で再生するほどだ。
チャチな拳銃では傷をつけた先から再生してしまう。
仲間がどうなったかは論じるまでもないだろう。
「クソッ!! 舐めやがってッ。どいつもこいつも好き放題!!」
ガンバンゴン!! と瓦礫に拳を叩きつけ、言い様のない感情を発散するように叫ぶ松海。
その瞳からは涙が溢れていた。
その拳からは血が滲んでいた。
その胸の奥で表現すらできなかった感情が一つの形に集束していった。
(殺してやる)
愛梨やジェームズや彰は松海に生きて欲しいからウイルス生命体に立ち向かったのだろうが。
でも、限界だった。
知人が親友が家族が恋人が、惨たらしく殺されて、これ以上逃げていることなどできなかった。
殺してやる。
例え、この身が滅びようと、侵略者どもを一人残さず、ブッ殺してやるッ!!
そう決意してしまった時だった。
コツン、と。
何かの足音が聞こえた。
「━━━ッッ!?」
音源は後ろ。
松海は自衛隊仕込みの身体能力で迅速に振り返り、拳銃を向け、引き金を引く…………寸前で動きを止めた。
後ろにいたのは一人の女の子だった。
薄汚れた白のワンピース姿の八、九歳ほどの純白の長髪をポニーテールにした女の子はビクッと肩を大きく揺らした。
射撃体勢で松海はひとつ息を吐き、ゆっくりと拳銃を下ろす。
怯えさせてしまった女の子へと、意識して優しい声音を作って話しかける。
「びっくりさせてごめんね」
「い、いえ……わたしも黙って近づいてごめんなさい……」
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