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キィは既に、トレーニングのことなどは考えられなかった。
ほんの十分ほどの時間が、果てし無く長く感じる。
目を閉じると思い出す、アスカの顔。
その目は、ユズが風兎のナイフを見つめる時のそれに酷似していた。
悲しみに満ちた、今にも涙の零れそうな瞳。
それの意味するところは、キィもよく感じていたものだった。
きっと、自分が父親に、後藤に対して抱いていた思いなのだろう。
真実を知ってしまった今となっては思いは変わってしまったが、あの家にいた頃は後藤もよく世話をしてくれていた。
しかし、それ故に自分は常に監視下に置かれ、お嬢様としての自覚を強要された。
時には体罰もあった。
相手が目の前で手を挙げれば、無意識に体が強張ってしまう。
分かっているからなのだ、自分に非があるということを。
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