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第56話 信じ抜いた心
数日たったある日、駅を出てシェアハウスが見えてきたところで、突然、目の前に安藤が現れた。
閑静な住宅街は、九時を過ぎると極端に人が少なくなる。
辺りには他の人の姿は見られなかった。
安藤は、容貌こそ相変わらずの美しさを湛えていたけれど、極度に疲れた顔をしていた。
「安藤……さん」
海斗から注意されていたこともあり、驚きはしなかったけれど、恐怖は募っていった。
シェアハウスまではもう少し、駆けていけばなんとか逃げられそう。
その距離に少し励まされる。
「随分、ふざけた真似してくれたよな」
低く響く声が更なる恐怖を煽る。
「わたしは何も……」
「俺はお前のことを愛していたのに……他の男のところに行きやがって」
何の話?
なんだかおかしい。
解雇されたことで怒っているんじゃないの?
「全部お前のせいだ。お前が俺を裏切るから」
「何を言っているのかわかりませんっ……いやっ」
安藤が突然わたしの首を目がけて襲いかかってきた。
「やめてっ、いやっ」
必死にその手を振り払う。
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