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確かそれは、5月の終わりか6月のはじめ。
本来なら僕なんかに縁のないこの恋物語は、その日、彼女のちっぽけな勇気によって、幕を開けた。
などと詩的に飾ってはみたものの、実際物語の絵になるのは彼女だけだ。
相手役を務める僕は彼女のおまけどころか背景になるかならないくらいに見劣りしていて、いくら恋の物語と言い張ってはみても、相手が背景では彼女に一人芝居をさせているようで申し訳ない。
ここまで自分を卑下せざるを得ないというのに、僕が身の丈に合わない恋物語に興じるなど、誰が聞いても理解に苦しむことだろう。
とりあえずプロローグの代わりに、彼女がちっぽけな勇気をふるった始まりの朝のことをお話ししよう。
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