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月の光に照らされた桜がとても綺麗だったのを今でもはっきりと覚えている。
風にそよがれ、ピンク色の花びらがヒラヒラと地面に落ちていった。
夜に一人でいるには、かなり勇気がいる歳だった。
だけど、俺は勇気を出して、その桜の木の下に行くこと画出来たんだ。
あの子がいる桜の木の下に。
「……そんなところで、何してんだ?」
我ながら酷い演技だ。棒読みだし、気持ち悪い笑顔だし、相手に逃げられてもおかしくない。
「桜……」
好きなんだ――その子は桜を指差しながら言った。
その時、こっちを向いた彼女は、狸のお面を被っていて表情がよく見えなかった。
「どうしてお面なんか 被ってるんだ?」
その質問に彼女は答えなかった。何か不味いことでも訊いてしまったかと思ったが、やがて、彼女から、
「君は……どうしてここに?」
「えっ!? ええと……」
まさか君に会うためにとも言えなかった。
「病室から見えるこの桜が綺麗だったから……ちょっと見に来たかったんだよ」
名前は難しくて良く分からない。ただ肝臓が悪いとだけ理解している。発病したのは4歳くらいの頃だ。今は13歳だから、もう9年も闘病生活を送っていることになる。
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