雪原 冬空(ユキハラ フユゾラ)

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 「ちょっと動かないで」  そう言うなり、彼女は俺のすぐ目の前まで顔を近付けた。  「なっ、なななな何を……!」  彼女の手の平が、俺の右目に触れた。正確には、右目の瞼に触れた。  「治してあげるから……私と遊ぼ?」  「……ッ! う、がはっ!」  眼球に直接触れられてる訳じゃないのに、まるで目玉を強引に抉り取られるような激痛に襲われた。全身から嫌な汗が玉のように噴き出し、意識が朦朧してきた。彼女を振り払う気力すら無かった。  「があ……あぁ……」  「約束だよ? 今度は遊ぼうね」  俺の意識はここで完全に途切れた。  18歳の秋――と言っても、俺は病気のせいで1年留年しているから、現在は高校2年生なのだが。  今では病気もほぼ回復したので、体育の時間も普通に受けている。尤も、運動神経は中の中と言ったところか。  それでも、俺は充実の高校生活を満喫していた。  ユキハラ フユゾラ  雪原 冬空。  それが俺の名前だ。  始業式当日の朝、俺は懐かしい夢を見た。まだ闘病生活を送っていた13歳の時の記憶がそのまま夢になって出てきた。  「……結局、あの子、今何してるんだろう……?」  とりあえず、ベッドから出る。
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