プロローグ

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 数年前の話ーー  紫乃宮藍瑠(しのみやあいる)は必死に走っていた。まるで何かから逃げているように。  アスファルトで整備された住宅街の道路を抜け、いつも遊んでいる更級公園の中へ突き進んでいく。  まだ幼児と言っても過言ではない少年の後方から、黒い物体が接近して来ているのだ。  既に夕刻を過ぎ、辺りは闇に支配され始めていた。 「はっ、はぁ、はぁ」  藍瑠の息は乱れ、足は棒のようになり、うまく動かせなくなっていた。  それでも走る。走る。走る。  そうでもしなくては、這いずるように襲ってくる黒い物体に襲われてしまうから。  そして追い付かれたら最後。死んでしまうと本能が察知しているからだ。 「何だよ、これ!  僕が何をしたんだよ!」  後ろの化け物に向かって叫ぶが、言葉なんてわからないだろう。  ただ這いずるように彼を追走する。  不可解なことに辺りには人っ子一人見当たらない。  暗いとはいえ、普通なら散歩する人くらいいるはず。何かがおかしかった。  だが、藍瑠に周りを気にしてる余裕なんてない。  逃走に必死なのだから。
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